2006年9月29日
現在、最も“高音質なHDDプレーヤー”として、マニア層の厚い支持を受けている(株)ケンウッドの“Media Keg”。その最上位モデル「HD30GB9」が登場した。
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HD30GB9。形状は従来機とほぼ同様だが、内部は大きな進化を遂げた。色は写真のブラックのほか、直販限定でホワイトも選べる |
HD30GB9は、その型番が示す通り、昨年末に登場した第2世代機「HD30GA9」のマイナーチェンジモデルだ。Media Kegシリーズの特徴である“クリアデジタルアンプ”の回路が刷新され、さらなる音質の改善が試みられている。
アンプをセパレートにして、音質を改善
HD30GB9の改良ポイントとして、まず最初に注目したいのが、従来1チップで構成されていたデジタルアンプを、プリ段とパワー段に独立させたセパレート構成にした点だ。ケンウッドはこれを“クリアデジタルアンプEX”と呼んでおり、チップ自体の性能向上に加え、電源等の干渉による悪影響を廃したことで、より純度の高い再生が可能になったとしている。
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クリアデジタルアンプEXのブロック図。プリアンプとパワーアンプを分けることで、歪み率を低減した。 |
ヘッドホンをドライブするパワーアンプはD級動作(電源のスイッチングで音量の増幅を行なう方式)で、ノイズの混入や音の歪みを防ぐため、パワーラインをほかの回路とは別系統とした(“Newクリアデジタル電源”)。また、ノイズを拾いにくい回路パターンに最適化するなど、アナログ的な試行錯誤も行なっている。
ヘッドホン出力も従来の最大6mW+6mW(16Ω)から、最大8mW+8mW(16Ω)に高出力化。高インピーダンス/低能率のヘッドホンでも音量が取りやすくなった。一方、プリアンプでは、オーバーサンプリングの精度が従来の8倍(8fs)から32倍(32fs)に向上。これにより滑らかな音の再現を行なうとともに、量子化誤差を低減し、曲間や無音時にかすかに感じるノイズの低減も行なっているという。
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HD30GA9で採用された、fホール・グランド・シャーシも健在。グランドラインの強化と振動の低減に貢献する。 |
CDを上回る情報量を提供できる“Supreme EX”
HD30GA9に搭載されていた帯域補完技術“Supreme”(サプリーム)も、アルゴリズムを強化した“Supreme EX”に進化した。補間できる周波数帯域の上限が22kHzから、44.1kHzに向上しており、MP3やWMAなど不可逆圧縮時に失われる高域成分の補間はもちろんのこと、非圧縮のWAVE形式やロスレス圧縮が切り捨てた高域データの補間も行なえるようになった。
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背面。シルク印刷が従来機種と異なる |
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44.1kHzまでの高域補間に対応したSupreme EX。 |
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実売5万円前後という価格は、HD30GA9の登場時とほぼ同等。HDD容量が30GBのままである点を考えると、やや割高感はあるが、アンプの改良などによって部品のコストはむしろ上がっているという。派手な新機能や目に見えて分かるスペックの向上ではなく、あくまでも音質面の改善で勝負をかけている。“音”に対するケンウッドの強い意気込みを感じさせる製品だ。
よりカスタマイズ性が高まった本体のGUI
HD30GB9の操作性は、HD30GA9と大きくは変わっていないが、細かな面での変更が見られる。例えば、本体GUIの設定項目には、“アルバムビュー”“ライブラリ表示”“再生画面設定”“2ウェイサーチ”などが用意されており、従来より詳細なカスタマイズが可能になった。また、グラフィックイコライザーも、“5バンドタイプ”となり、3つまでのプリセット登録が可能になっている。従来機は、高音域(1.8/3.7/6.4kHz)と低音域(45/90/180Hz)の音量を変えるタイプだった。
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5バンドグラフィックイコライザーの画面(左)。設定は3種類まで保存できる(右)。 |
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画面上部にアルバム名とジャケット写真、下部に曲名一覧を表示するGUIを追加した(左)。上下ボタンを深押しした際のスクロール速度も細かく設定できるようになった(右)。 |
パソコンからHD30GB9への楽曲転送には「Kenwood Media Application」(KMA)と「Windows Media Player」の2種類が利用できる。KMAは、純粋にファイルを転送するためのソフトで、リッピングやエンコーディングの機能はない。MP3やWMAファイルにあらかじめ付加された、メタタグの情報は表示できるが、CDDBから自動的にメタタグの情報を取得することはできないので、WAVEファイルの場合は、手動で曲名などを入力することになる。
従来バージョンと比較すると、KMAに楽曲をドラッグ&ドロップするだけでHD30GB9への転送が行なえたり、複数の楽曲を選択してアルバム名やアーチスト名を一括変更できるようになるなど、操作性のブラッシュアップが行なわれた。また、HD20GA7/HD30GA9では、パソコンからプレーヤーに音楽ファイルをコピーする際には、著作権を保護するため、独自形式の暗号化が行なわれていたが、今回からプロテクトなしにMP3やWMAファイルを転送する仕様となった。変換処理がかからないため、転送速度も向上する(ほぼコピー時間のみ)。
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Kenwood Media Application。パソコンからHD30GB9へ楽曲を転送する際に利用する。 |
最近ではUSBホスト機能を持ち、USBポートにつないだストレージ内のMP3ファイルやWMAファイルを再生できるミニコンポも増えているが、HD30GB9ならこういった機器との連携も可能だ。ケンウッド自身も年末商戦に向けて、USBポート搭載のミニコンポを製品化すると表明しており、こういった機器との連携も期待が持てる。
じわりと分かる音質の向上
今回、標準添付のヘッドホンのほか、SHUREの「E4c」(インピーダンス29Ω、109dB/mW)、AKGの「K171 Studio」(55Ω、94dB/mW)、オーディオテクニカの「ATH-A55」(60Ω、102dB/mW)など複数のヘッドホンを使い、何種類かの音楽ソース(WAVE形式)を従来モデルと聴き比べてみた。
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試聴に使用したヘッドホンとCDの一部。 |
音質の傾向はHD30GA9とよく似ており、過去に掲載したレビュー記事に書いた内容がほぼそのまま当てはまる。音のバランスがやや高域に寄ったHD20GA7(第1世代機)と比べると、より中低域の厚みを感じ、高域の表現も擦音を抑えたソフトなものとなっている。HD30GA9との比較では、ハッとするような違いは感じないかも知れないが、いろいろなジャンルの楽曲をヘッドホンを変えながら試聴を重ねると、音の見通しや、きめ細やかさ、中高域の解像感、低域のスピード感などが改善されていることに徐々に気付く。
特に、アンプの出力がアップすることで、ヘッドホンのドライブ能力にかなり余裕が出た点はうれしい部分だ。K171 Studioは、密閉型のモニターヘッドホンで、メリハリの利いた音で鳴る反面、出力が弱いとやや中域がやせた印象になる。しかし、HD30GB9と組み合わせて聴くと、こういった不満はなく、高域から低域にかけてバランスのよい、フラットな印象の音となった。試聴では「マーラー交響曲6番 悲劇的」(ブーレーズ指揮、ウィーンフィルハーモニー管弦楽団)、ヴィオラ・ダ・ガンバとポジティブオルガンによるバッハの器楽曲などを聴いたが、いずれもワイドレンジで均整の取れた印象。澄んだ高域と引き締まった低域が魅力的だった。
無音部分のノイズはかなり低減
いろいろなヘッドホンと組み合わせたい
無音部分のノイズに関しては、従来機種の場合、一般的なヘッドホンではほぼ皆無という状態だったが、能率が高い一部のカナル型ヘッドホンで聴くと、鳴っていると気付く程度の音量を感じた。E4cを使用した試聴では、HD20GA7に比べかなり小さな音になったのは事実だが、残念ながらゼロにはなっていなかった。ただし、それ以外のヘッドホンでは、ノイズはまったく感じないレベル。同じカナル型でも、ケンウッドの「KH-C701」(32Ω、108dB/mW)ではノイズを拾わない。ヘッドホンとの相性の問題と考えたほうが良さそうだ。
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最新の「iPod」(写真右)との音質比較も行なった。 |
また、9月13日に発表になったばかりの新型「iPod」(80GB版)との比較試聴も行なってみた(関連記事)。iPodは意外にもクラシック音楽との相性がいい。HD30GB9と比較すると、iPodの音はよりやわらかな印象で、フルオーケストラのスケール感ではHD30GB9に勝る部分もあった。ただし、個々の音を明瞭に聞き分けられるのはHD30GB9のほうで、解像感の高さや高域の抜け、表現の繊細さなどでiPodは一歩譲るように感じた。特に、クラシックギターなどアコースティックなソースの臨場感などに差が出る印象だ。
なお、HD30GB9の特徴である、Supreme EXの効果に関しては、WMAのような圧縮音源に利用した場合、音の鮮度が気持ち上がるような印象を持ったが、顕著な差は出ない。補間の演算処理が加わるため、バッテリー寿命が若干短くなるというデメリットも理解した上で、オン/オフを使い分けたい。
大きな驚きはないが、着実な進化を感じる1台
このようにHD30GB9は、従来機種の持ち味を継承し、進化(深化)させた1台となった。冒頭でも述べたとおり、30GBのHDDながら実売で5万円というのは、決して安価なプレーヤーとは言えない。例えば、iPodの場合、これよりも安価な価格で、80GBのHDDと動画再生機能を搭載した製品を購入することが可能だ。また、パソコン上に構築したライブラリーとの連携機能に関しても、こなれていない面を感じる。
しかし、この製品にその価格に見合った価値があると感じる層がいるのも事実だろう。携帯音楽プレーヤーは、これまで機能の多さや、操作性の善し悪しで評価されることが多かったが、“いい音で音楽を楽しむ”という“質”の部分に関しては、まだまだ改善の余地がある。Media Kegが、一部ではあるが熱烈な歓迎を受けているのは、カタログに表れるスペックには表れにくい“品質の改善”を望む声があるということだと思う。
筆者も、Media Kegで聴くことで“従来感じなかった曲の魅力”に気付くという経験があった。この快感が根強い人気の秘密なのだろう。HD30GB9は、従来機種のユーザーはもちろんのこと、携帯音楽プレーヤーの音質にもの足りなさを感じている人にもぜひ手にとってもらいたい製品だ。
| “Media Keg”HD30GB9の主なスペック |
| 製品名 |
HD30GB9 |
| 容量 |
30GB |
| 再生フォーマット |
MP3、WMA(WMA-DRM対応)、WAVE、KLS(Kenwood Lossless) |
| 対応ビットレート |
MP3:32〜320kbps、WMA:48〜192kbps |
| 電源 |
内蔵リチウムイオン充電池 |
| 連続再生時間 |
最大20時間 |
| 充電時間 |
USB経由で、約5時間(ACアダプターは別売) |
| インターフェイス |
USB 1.1/2.0(Hi-Speed対応) |
| サイズ(W×D×H) |
61×17×104mm |
| 重量 |
約140g(バッテリ装着時) |
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(編集部 小林 久)
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