2006年12月20日
 |
国内で最初に登場したPLCアダプター、松下電器産業の「BL-PA100KT」 |
家屋内の電力線に高周波信号を流して通信を行なう“高速PLC(Power Line Communication)”が、2006年10月に解禁された。この仕組みを使う第1号製品が、松下電器産業(株)のPLCアダプター『BL-PA100KT』だ。このアダプターを家屋内の壁や廊下にあるコンセントに差し込むと、電気の配線がネットワーク配線に変身する。その動作原理と使用感について紹介しよう。
 |

アダプターの裏には総務省による形式指定を受けた証である指定番号がある。 |
電気配線がネットワークになる 高速PLCっていったいなんだ?
まずPLCについて簡単に触れておこう。PLC(電力線通信)とは、家屋や建物に引き込んで照明や冷暖房・電気機器、コンセントに電気を供給している電力線に、ネットワーク信号を流して通信を行なうものだ。従来から周波数の低い(10kHz〜450kHz)信号を流して、通信速度9600bps程度の低速PLCを行なうことはあった。これに対して高速PLCでは、2MHz〜30MHzという高周波信号を用い、最高200Mbps程度(※1)の高速通信が可能になっている。
※1 理由は後述するが、実効データ転送速度はそこまで速くない。
 |

ネットワーク信号を2M〜30MHzの高周波信号にし、電力線(50/60Hz)の波形と合成して流す。PLCモデムが信号の合成と分離を行なう。 |
 |

配線がつながっているすべての電力線にPLCの信号が流れるため、無線LANの電波が届きにくい場所でも、情報機器や家電の宅内ネットワークを容易に構築できる。引き込み線から電柱のトランスまでは流れるため、集合住宅などでの利用は注意が必要。 |
高速PLCでネットワークを構築するには、専用のPLCモデムが2台以上必要になる。PLCモデムは親機と呼ばれる“マスターアダプター”と子機側になる“ターミナルアダプター”で構成され、1台の親機に複数の子機(最大15台)を登録・接続できる。今回紹介するBL-PA100KTは2台のPLCモデム『BL-PA100』をセットにした製品で、あらかじめ1台が“親機モード”、もう1台が“子機モード”になるよう、出荷時に設定されている。ただし親機も子機も機能的にはまったく同じで、PLCモデム背面のスイッチで親機/子機の動作モードを切り替えられるようになっている。
 |

製品を構成する2台。マスター側は上部に“MASTER”シールが貼ってあるが、機能的には同じ。 |
箱を開けて驚いたのが、PLCモデムのサイズ。広報写真を見ても大きさがなかなか把握できず、利用時に邪魔になるのではと考えていたが、実物を手にすると意外とコンパクトにまとまっている。これなら例えば普段から鞄などに入れておき、急にネットワーク環境が必要になったときなどに取り出して使っても重宝するだろう。なお現時点では、PLCモデムの使用は、屋内配線のみに限定されている。
 |
前面(左)と背面。前面に3つのインジケータランプ、背面に電源コネクタとLANポート、MASTER/TERMINAL切り替えスイッチと、設定初期化ボタンがある。 |
|
 |
上面(上)と下面。上面には自動設定、自己診断を行なうSETUPボタンがある。 |
|
 |

ノートPCの横に置いてみた。コンパクトカメラ程度の大きさで余計な凹凸もないので邪魔にならない。 |
| BL-100KTの主なスペック |
| 製品名 |
BL-PA100KTスタートパック |
| 通信方式 |
HD-PLC方式 |
| 利用周波数 |
4M〜28MHz |
| 変調方式 |
Wavelet OFDM |
| 通信速度 |
最大190Mbps(物理層) |
| 実効速度 |
最大80Mbps(UDP)、最大55Mbps(TCP) |
| 暗号化方式 |
128bit AES暗号化 |
| 通信距離 |
最大150m(電力線の長さ) |
| LANポート |
10/100BASE-TX×1(Auto MDI/MDI-X対応) |
| 接続仕様 |
1台のマスターに、ターミナルを15台まで接続可 |
| 本体サイズ(W×D×H) |
121×40×70mm |
| 重量 |
約240g |
|
難しい設定は一切必要なし! コンセントに差し込むだけで使える
それではさっそく使ってみよう。アダプター本体に付属の電源ケーブルを取りつけ、LANケーブルを接続する。電源ケーブルを壁のコンセントに差し込み、LANケーブルでアダプターとADSLモデムやルータ、あるいはパソコンを接続する。たったこれだけの作業で、PLCモデムの親機/子機間(にある電力線)がネットワークでつながれるというわけだ。
 |
PLCモデム側の作業は、電源とネットワークケーブルの取りつけるだけ。 |
|
 |
後は壁のコンセントに差し込むだけで、ネットワークが構築できる。 |
|
 |

BL-PA100にウェブブラウザー経由でアクセスすれば、IPアドレスの設定なども行なえるが、通常の使い方なら、特に設定の必要はない。 |
親機と子機の間は、128bitのAES暗号で保護されており、親機に正規の方法で登録された子機しか通信できない。なおスターターキットのBL-PA100KTでは出荷時に登録されているが、子機として単体のBL-PA100(予想実売価格は1万3000円前後)を追加(※2)する場合は、親機と追加の子機の両方を近くのコンセントにつなぎ、親/子同時(5秒以内)に本体上の“SETUP”ボタンを1秒以上押せば、自動的に登録が行なわれる。
※2 子機を2台追加する場合は、親機子機セットのBL-PA100KTを、もう1セット購入したほうが安価だ。セットの親機の背面スイッチを、子機(TERMINAL)に切り替えればいい。
 |
子機を追加する際には、親機/子機を近くのコンセントに差し込み、双方のSETUPボタンを5秒以内に押すだけでいい。 |
|
 |
前面インジケータランプで、親機/子機の状態、電力線ネットワークの状態、端末(パソコンなど)側の接続状態が分かる。 |
|
電力線で通信を行なうPLCは、電気配線の長さやほかの電気機器が出すノイズの影響を受けるため、状況に応じて通信速度および実際のデータ転送速度が変化する。BL-PA100には簡単な自己診断機能(UDPでの通信速度測定)が搭載されているので、試してみるといいだろう。自己テストは親子2台のBL-PA100をコンセントにつなぎ、子機側のSETUPボタンを3秒以上押す。測定中は本体前面のインジケータランプが順番に点滅し、直後に点くランプの数で速度を示すというわけだ。
 |
自己診断中の様子。子機側(手前側)のランプが3つ点いている場合は、30Mbps以上の速度となる。 |
|
 |
親機を別系統の電力線コンセントに接続し、分電盤経由で通信したときの自己診断の結果。ランプ2つで10〜20Mbps。1つなら10Mbps未満。 |
|
通信速度にはほかの電気製品の影響が大きく響く
通信速度や接続性など高速PLC機器の実力を見る上で、実際の家屋でのデータ測定は欠かせない。今回は筆者の自宅で試してみた。ちなみに建物は軽量鉄骨造の2階建て(一戸建)で、特にPLCのためではないが、各種電子機器のテストを行なう際のノイズ対策として、分電盤直結の専用コンセントをいくつか用意してある。
 |

今回は親機を専用コンセントに接続してテストした。専用コンセントは分電盤から1本の電力線で配線されており、他の機器が発するノイズの影響を受けにくい。アース付きのコンセントの場合が多い。 |
いろいろと条件を変えながら、2台のパソコン間で、10MB/50MB/100MB/300MBのファイルを数セットずつ送受信したときの平均での実効データ転送速度が下の表である。
4条件での実効データ転送速度 なお“通常の壁コンセント”の電力線経路には、インバーター照明や充電アダプター等が存在する。
| 最短経路:2台を同一の非ノイズ対策品電源タップに接続 |
親機→子機方向 |
34.03Mbps |
| 子機→親機方向 |
29.31Mbps |
| 最良経路:2台をそれぞれ独立した専用コンセントに接続 |
親機→子機方向 |
25.32Mbps |
| 子機→親機方向 |
22.97Mbps |
| 通常経路:親機を専用コンセント、子機を通常の壁コンセントに接続 |
親機→子機方向 |
4.52Mbps |
| 子機→親機方向 |
3.96Mbps |
| 非推奨例:高周波をカットするノイズ対策用電源タップを利用して接続 |
親機を電源タップに |
接続できず |
| 子機を電源タップに |
接続できず |
|
BL-PA100のカタログスペックは、通信速度190Mbps。データの送受信ではなくネットワーク信号のみのテストで80Mbps(UDP)/55Mbps(TCP)となっている。しかしデータ転送テストの結果は、ベストの環境でも約34Mbpsとなった、また実際の一般家屋の環境に似せた状態では5Mbps程度と、正直なところ期待したほど速くはなかった。ちなみにテスト環境のパソコン同士(いずれもGigabit Ethernet対応)を、LANケーブルで直結した場合の転送速度は約403Mbpsである。同社でもモーター(交流ブラシモーター)を使う掃除機やドライヤー、スイッチング回路が採用されているACアダプターや充電器(携帯電話機の充電器や充電池用アダプター)など、特にノイズ源となる電気機器を使うと、通信速度が低下すると案内している。
これを確認するため、BL-PA100での通信中に、各種電気機器を使ったときの速度低下状況をチェックしたのが下の画面である。通常時は8Mbps程度で送信していたのが、充電器をつないだとたんに3Mbps程度に低下した。しばらくたってから充電器を取り外したが、その後も20秒ほどは速度が回復しなかった。
 |

充電器の取りつけ/取り外しの瞬間に、短い時間だが速度が大きく下がる。この現象は、部屋の照明など電灯スイッチのオン/オフ操作でも同様に発生した。電力線に大きなノイズが走るのだろう(OGA氏作成のフリーソフトウェア“TCP Monitor Plus Ver.1.94”を使用)。 |
メーカーや業界は積極推進するが…… 競合に勝つには足りないものも
高速PLCのライバルと目されるのは無線LANだ。今回のPLC試用時も、同じ環境の無線LANで同様の転送テストを行ったが、10Mbps〜20Mbpsで安定して通信ができており、速度だけを見るなら無線LANに軍配が上がる。両者を使い分ける場合、PLCは家屋内でも無線LANの電波が届きにくい場所に設置することになるだろうが、今度は家屋内の家電製品の影響を受けてしまう。
高速PLCの問題はそれだけではない。本来、通信用に設計されていない電力線に高周波を流すと、電線がアンテナとなって電波(短波)を出してしまうのだ。
BL-PA100では、アマチュア無線や短波ラジオ(の一部)が利用する周波数帯の信号を弱くすることで、ほかの電波利用システムへの影響を押さえている。しかし、そのほかの短波無線システムや精密電子機器、医療機器などへの影響を懸念する声もある。また、宇宙からの微弱な電波を観測する電波天文学への深刻な影響も心配されている。12月7日には、これら悪影響を懸念する任意団体が“高速PLC機器の認可取り消し・差し止め”を求める行政訴訟を提訴した。
そのほかにも接続互換性の問題が残っている。現在、高速PLCに関しては複数の業界団体があり、規格についても下記に示すように3種類がある。BL-PA100が採用する“HD-PLC方式”では、(株)アイ・オー・データ機器からも製品が出ており、一般消費者向け高速PLC製品としては先行して市場に出てきたのだが、企業などへの大量導入では、“UPA方式”や“HomePlug方式”が主流になるとの見方もある。同一の電力線経路に複数のPLC規格が混在すると、おそらくはどちらも通信できなくなる。電力線を共有する集合住宅や、企業が入るビルなどでの利用は難しいと思われる(例えば、KDDIは集合住宅向けには無線LAN、戸建て住宅にはPLCを勧めている)。
高速PLCの主な規格と、推進する業界団体
-
HD-PLC方式
-
CEPCA (Consumer Electronics Powerline Communication Alliance)
-
HomePlug方式
-
HomePlug Powerline Alliance
-
UPA方式
-
UPA (Universal Powerline Association)
現行の高速PLCは、さまざまな問題を抱えた微妙な通信システムである。そのことはBL-PA100の商品案内サイトにもある“使用上の注意”を見てもうかがえる。使い勝手のよい新しい通信システムだけに期待も大きいのだが、現実には解決すべき問題が多すぎるのも事実。今後も普及には困難がつきまといそうだ。
(池田 圭一)
|