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【遠藤諭のケータイ出たとこレポート】『W-ZERO3』にユーザーが白熱する理由 Vol.2
ヨコ出しキーボードは“2つ折り”以来の大進化

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遠藤 諭が“W-ZERO3”の魅力をしみじみ語る集中連載の第2回目。長年デジタル業界を追ってきた編集者の立場から、モノ作りの哲学を考えた第1回目(12月5日掲載)はこちら

焼き鳥屋での会話

製品発表会より
製品発表会より、W-ZERO3を手にしたシャープ(株)代表取締役専務情報通信事業統轄の松本雅史氏、ウィルコムの八剱洋一郎氏、マイクロソフト(株)代表執行役社長のダレン・ヒューストン氏(左から)

W-ZERO3”の型番『WS003SH(B)』を聞いたとき何となくピクンと来るものがあった。W-ZERO3の“3”の意味は、10月20日の製品発表会で(株)ウィルコムの八剱洋一郎社長から説明されている(※1)。

※1 “3”は、“3rd”&“3way(PHSデータ通信/音声/Wireless LAN) Communication Tool ”の意味

実は、日本の電気製品の型番というものは、合理的にルール付けされている場合もあるが、おおむね“テキトー”と考えてよい。会社の裏の行きつけの焼き鳥屋で、つくねの串の先にビールを浸してテーブルに書いたりしながら議論していたりするものである。

とはいえW-ZERO3に“3”の番号が振られた意味は、私は、小さくないと思う。別に、変なこじつけをするつもりはない。“3”“5”“7”といった飛び石で型番を付けていくのが好きなメーカーはある(『バイオノート505』『PCG-707』などソニー(株)がその代表)。シャープ(株)の場合は“3ナンバー”で新分野に入ることがあるのだ。

初代ザウルスの『PI-3000』(1993年)、初代Linuxザウルス『SL-A300』(2002年)、歴史を遡れば最初の電子翻訳機『IQ-3000』(1979年)もある。シャープの広報に尋ねれば「たまたま」という答えが返ってくると勝手に推測するが、W-ZERO3は製品名だけでなく型番も“3”が与えられている(これは、ウィルコムの型番では? とツッコミも入りそうだが。もちろん、焼き鳥屋での議論の上でだ)。



『SL-C760』とW-ZERO3
ザウルス『SL-C760』(2003年)とW-ZERO3を並べてみた。QWERTYキーボードの“Q”から“P”までの幅はほぼ同じ。これで、使い勝手をある程度想像できる人もいるハズ

実は、新分野ではシャープは“1”(しかも『VI』『X1』などと潔く1桁)を付けることも多いのだが、“1”はよりチャレンジャブルな場合のようにも見え、“3”にはヒットの確信が込められているように思う

要するに、W-ZERO3は、いまどき“何台売れるか妄想の働かせ甲斐”のある製品なのだ。焼き鳥屋の続きでいえば、10万台、いや型番の“3”を取って30万台、てな感じで盛り上がっていったことだろう。実際、欧米でのスマートフォンやPDAフォン市場の広がりを見ると(※2)、300万台は確実に行くという議論がされてもおかしくない。「ビールひとつずつと、串ものメニューの端から端までいろいろドバッと追加!」というわけだ。

※2 シャープへのインタビューでも紹介したが、米ガートナー社による2005年第2四半期における世界のPDA出荷台数の報告では、カナダResearch In Motion社の『BlackBerry』は84万台と述べられている

ヒットの予感は、突き詰めれば、大きく2つの理由があるだろう。その1つは、いうまでもなく“PHSによるボイスとデータ通信”を内蔵していること。すでに米国では電話を内蔵しないPDAを“Classic PDA”(古典的個人情報端末)と呼んでいるがごとしである。そして、もう1つは何かといえば、やっぱり、あの“ヨコ出し”キーボードである。

ゲーム機コントローラ型フォーマット

SL-B500
SL-B500。パンツずり落ちキーボード=スライド式キーボードはSL-B500以前の機種『MI-E1』(2000年)でも採用されている

シャープといえば、“半ケツキーボード”とも“パンツずり落ちキーボード”とも私の周囲では呼んでいたLinuxザウルスの『SL-B500』が、あまりにも秀逸だった。当然、W-ZERO3の“ヨコ出し”キーボードは、そうした蓄積の上に成立しているのだろう。これが、正直いって、しばらく触らせてもらっていて、軽い衝撃を受けるほどのものだった。普通のパソコンのように普通に両手の全ての指を使ってタッチタイプするわけではないのだが、立ってでも使える理想的な大きさとキー配置となっているのだ(インタビュー参照)。

“WPC EXPO”などで実機に触った人ほど購買意欲が高いように見えるのは(もちろん購買意欲が高い人が触っているのでもあるが)、このキーボードの完成度の高さによるところが大きいと思う(アンケート参照)。両手で持って、無理なく使える、最小のキーボード。いうまでもなく、任天堂(株)の『ファミリーコンピュータ』は1983年に登場したが、当時ちょうど小学生から中学生だった連中が、W-ZERO3のメインターゲット(とくに企業ユーザー)であるのはいうまでもない。 携帯電話機やテレビのリモコンは“釣り竿”のように縦方向に持つ。一般的なPocket PCは、俳句でも詠むように左手に縦に持つ。それに対して、W-ZERO3を“ヨコ出し”で本体をヨコの状態で左右を掴むというのは、いわば“ゲーム機コントローラ型フォーマット”ともいうべき持ち方である。

ついでながら、私は、この“ゲーム機コントローラ型フォーマット”ともいうべき両手操作は、なぜテレビやAV機器が採用しないだろうと思っている。今年9月の“IFA”(ドイツの世界的なトレードショー)では、ボタンが1つしかないリモコンなども提案されていたが、むしろ高度化したいまのAV機器にはゲーム機型のコントローラのほうが向くからだ。いまのスティック型のテレビのリモコンは、やがて古き良き時代の“ライトペン”(マウス以前のポインティングデバイスの代表的存在)のように姿を消すのではないか。ついでに、どんな操作をしても「ピロン」とファミコンの音がして、マリオでチャンネルを選ぶようなテレビを、任天堂あたり出してくれないものか(任天堂は、横井軍平氏(故人)の精神をやはり取り戻してほしい……長くなるので今回はここまで)。



ファミコンのコントローラとW-ZERO3
ファミコンのコントローラとW-ZERO3

しかし、“まとも”なPDAの入力環境が欲しいという欲求は、ホワイトカラーにスマートホンやPDAホンが急拡大している欧米でも盛り上がってきていた。米Hewlett-Packard社の『OMNI GO』に搭載されて、後にPalmで採用される文字入力システム『グラフィティ(Grafiti)』は素晴らしい発明だが、いまほど“入力”の比重が高くなってくるとユーザーを選んでしまう。そんな時代の要求というか、歴史的必然ともいえる状況の中で、確実に、今年から来年にかけてのトレンドになってきているのが、W-ZERO3でも採用された“ヨコ出し”キーボードだと思う。

W-ZERO3ガイドブック』(アスキー刊)でも紹介したが、米国では、すでに“ヨコ出し”がいくつか出てきている。まずは、ドイツテレコム系のTモバイルUSA社『T-Mobile MDA III』。Windows Mobile 5.0を搭載したGSM(EDGE対応)端末で、2.8インチ液晶パネルはQVGA(320×240ドット)表示対応とW-ZERO3より劣るがBluetoothを標準搭載。130万画素カメラとminiSDという構成で、見た目もきわめてW-ZERO3に似た端末である。

次に、同じくWindows Mobile 5.0を搭載しているのが、米SprintPCS社の『Sprint PPC-6700』。これは、CDMA(EVDO対応)端末で、2.8インチ液晶パネルはやはりQVGA表示が可能で、無線LANに加えてBluetoothを標準装備。130万画素のデジタルカメラとminiSDカードの構成だ。

そして、もう1機種、一般の携帯に近いデザインでも米Cingular Wireless社の『LG F9100』が“ヨコ出し”キーボードを装備している。このストレートタイプのケータイからの“ヨコ出し”も、なかなかよいのではないかと思う。

T-Mobile MDA III
T-Mobile MDA III。横長に構えた時の本体サイズは幅109×奥行き59×高さ23mmで、重量は150g。“ヨコ出し”キーボードの出方が、W-ZERO3とは反対側なのに注目
Sprint PPC-6700
Sprint PPC-6700。横長に構えた時の本体サイズが幅108×奥行き59×高さ25.4mm、重量は172gと、T-Mobile MDA IIIよりも一回り大きくなっている
LG F9100
LG F9100。横長に構えた時の本体サイズは幅106×奥行き51×高さ25mm、重量は135g。名前のとおり韓国LG電子製である

液晶とキーボードからなる端末では、一般的にノートパソコンをそのまま小さくしたような“二枚貝”(Clam Shell)形をしたものがほとんどである。実は、ディスプレイ部がヒンジを元に開く構造は、『月刊アスキー』の創刊1周年記念号に掲載された未来のパソコンのイメージ『極楽1号』で採用されていた。米社が日本のコンピュータメーカーに対して起こした特許裁判で、この極楽1号のスケッチが“すでに公表されていたアイデアである”という資料になった。しかし、この二枚貝構造が、本当に使い勝手がよい仕組みかというと、あくまで構造上簡単でコスト的にラクというのが理由のひとつに思える(もちろん液晶の角度を調整できる点でも便利ではあるが)。対して、W-ZERO3の“ヨコ出し”キーボードでは、ポケットから取り出して手先だけの動作ですぐに使い始められる。二枚貝式では、ボタンを押すと自動的に開くなど特別な仕掛けがない限り、肘までひねるような動作が必要になるのに対して、いかにもスマートといえる。 しかも、キーボードを出さない状態でも液晶が露出していてペン操作が可能という特典があるのはいうまでもない。

一度でも使えば分かる“ヨコ出し”キーボードの便利さ。それは、ケータイの“2つ折り”以来の大進化といえる。W-ZERO3は、その意味でも時代の変化を先取りしたデバイスと言えそうだ。出先で見るだけでなく、積極的に情報をインプットしていくモバイル環境である。

極楽1号
月刊アスキー 1978年6月号表紙
極楽1号。二枚貝式というほど本体と表示部が同じ大きさではないがヒンジで表示部が開く構造。『月刊アスキー』1978年6月号より

続く

(遠藤 諭)




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